玄関に入る。
黒のスニーカーが揃えて置いてある。
やっぱり律儀やな。
そんなことを思いながら
リビングに向かう。
『それでね!!沙織ったら
ブランコで大泣きして!!
もう一生分の涙流すんじゃないか
ってぐらい泣いてたのよ!!』
もう始まってる。はぁ。
呆れて、自分の部屋に鞄を置いて
ラフな部屋着に着替えて
リビングに向かう。
『ありがとう。圭介くん。』
『いえ。こちらこそ
ありがとうございます。』
2人の会話が聞こえてくる。
『ん?何の話してたん?』
『沙織の武勇伝♪ふふふ♪』
『い、いらん事言うてへん!??』
『大丈夫。
おばけが怖くて夜中のトイレは
扉開けたままするなんて
聞いてない。』
『ごぉぉおらぁぁぁああ!!!!
お母さん!!!!
何言ってくれてんの!!!!』
『てへっ♪口滑っちゃった♪』
あーもう。穴があったら入りたい。
それから晩御飯をみんなで食べて
気づいたら0時を過ぎようとしてる。
『尾方くん!時間!!』
『うおっ!本当だ!やべ!!』
『あら、そんな大丈夫よ〜♪
泊まって行きなさい♪
部屋なら1つ空いてるし♪』
もうここまでくると
驚きも少なくなってくる。
『いや、それはさすがに悪いんで。』
『尾方くん、泊まっていいよ。
お母さん一度言うと聞かないから。
お気に入りになったみたいやし。
もう逃げれないと思う。』
『、、え。』
『ま、無理にとは言わないけど。』
『いや、なんか
ここまで良くしてくれるのは
ありがたいし、楽しいから
もう少しここに居たい。
お言葉に甘えさせていただきます。』
『いや〜〜♪楽しいだって♪嬉しい♪』
そこからまた1時間程話をして
明日も学校ってことでおひらきにして
寝ることになった。
『今日はごめんね。』
『いや、俺こそ。押しかけてごめん。』
『完全にお母さん
暴走しっぱなしやったな〜〜。』
『面白いし、明るいし
頼りになるお母さんやな。』
『どこが〜〜。』
『俺はそう思う。』
あたしはお父さんを早くに亡くしてる。
顔もあんまり覚えてない。
だからお母さんが唯一の家族。
その家族を褒めてくれた。
うるさいけど、自慢のお母さん。
『ありがとう。嬉しい。』
そう言って、尾方くんに笑いかける。
尾方くんはふいっと方向をかえて
空き部屋に向かう。
『俺、朝弱いから。起こしに来て。』
『え?、、あ、わかった。』
そう言うと
そそくさと部屋に入ってしまう。
尾方くんの顔、少し赤かった。
いや、まさか、、ね。
あたしも自分の部屋に入る。
すぐに眠気が来て、目を閉じた。
ーピピピッ ピピピッ ピピッー
『んん〜〜、、、とっ。』
眠い。いつも以上に。
何でだろう。
あ、、、昨日尾方くんが来たからだ。
夜中までお母さんの口
止まらなかったもんなぁ。
そういえば、昨日、、、
起こしに来てって言われたんやった。
ベッドから出て
空き部屋に向かう。
ーコンコン ガチャー
扉から顔だけだして呼びかける。
『、、尾方くーん。朝だよー。』
『、、、、、』
起きない。
『おーがーたーくーん。』
『、、、、、』
全く起きない。
『ふぅ。』
1つため息を漏らして部屋に入る。
ベッドに近づく。
壁に向かって寝転んでいる尾方くん。
『尾方くーん。起きてー。』
『、、、、、』
『、、、圭介くん。起きて。もう朝。』
全く起きないから名前で呼んでみた。
自分で呼んでおきながら恥ずかしい。
恥ずかしくて一旦部屋を出ようとする。
ーギュッー
腕が引っ張られて、ベッドに倒れこむ。
『おはよ。沙織。』
息がかかりそうな距離で
尾方くんが寝ぼけながらつぶやく。
『、、お、おは、、おはよ。』
しっかりと抱き寄せられて
身動きがとれない。
『お、、、尾方くん?』
『、、圭介くん、じゃないんや。』
『え、、!?』
『ざーんねん。』
『えぇ!?!?』
そして腕が離され、自由になる。
『沙織〜圭介くん〜♪
朝ごはん出来たわよ〜〜♪』
『は、はーーーい!!!!
、、、先に行くから!』
『ん。』
ーガチャ バタンッー
まだドキドキしてる。
あーもう!心臓に悪すぎ!!!
そして一緒に朝ごはん食べて
一緒に家を出る。
『いってきます!!』
『いってらっしゃーーーい♪
圭介くん!また来てね〜♪』
『はい!ありがとうございます!
お邪魔しました!!』
並んで登校。
朝の出来事があってから
まともに顔が見れない。
話なんかもってのほか。
『沙織、怒ってる?』
『え!?なんで?』
『いや、朝の事。』
『別に怒ってへんよ。
びっくりしたけど。』
『そっか。良かった♪』
あぁ。またその笑顔。ずるい。
でもやっぱり笑顔の尾方くんがいいな。
、、、今、気づいたけど。
名前。ちゃん付けじゃなくなってる。
朝の出来事に名前の呼び方。
いつもとちょっと違うだけで
こんなに1日がキラキラするんだ。
幸せを感じる。
でもこの幸せを感じる度に
りょうくんの顔が浮かんでくる。
りょうくんがいないのに
あたしは幸せになっていいんかな。
ねぇ、どう思う?
、、、、、りょうくん。
