私はあの頃から彼が好きだった。
懐かしい話をしよう。
小学生の黒菜はいつもみたいに静かに本を読む。
この時間が好きなのだ。
私はしゃべらない子であり、笑わない子として見られてきた。
(また、そんな本呼んでんのか。)
(別にいいでしょ。)
(可愛いくないやつだ。)
彼の名前は秋田 結城 目がきれいで寂しそうなそんな感じ、でも運動神経も頭もいいのだ。私と違って…
そんな彼の事が嫌いだった。毎日何かしら絡んで来るから…。
私は高学年になり、海の宿泊に行くことになったのだ。正直怖かった。母に会えなくなることが…
バスの景色を見る。同じような景色が別の景色に変わる。
(嫌だな)
バスレクが始まった。勝手に私の名前を彼が呼ぶ。彼が前の席だった。
(お前うるさい)
(名前で呼べ…呼び捨てな)
(分かった)
直ぐに時は過ぎ、夜になった…
肝だめしと言うくだらんことをやることになった。
(よろしくな)
(ああ)
ぎこちない会話見えない周り…彼がこう言った
(手握れよ。離すな、走るな、ライトは俺がもつ)
私はうなづく…
(左手が寂しいからな)
彼は強がりで寂しがりやな事が分かって私は…
(ぷっはははは)
何処か私と似ていて私ははじめて彼だけに笑顔を見せたのだった。
彼を見ると下を向いて顔を真っ赤にする。
(黒菜って笑うと可愛いんだな)
あたしはその声を聞けなかった。
(何?何か言った。)
(別に何でもねえよ。)
急に彼は走り出した。
(ちょっと…走らないって言ったじゃん)
(あはははっ)
そんなよくわかんない彼にドキドキしていた。どうしよ…あたし…

彼に会って素直になれるならこう言いたい。
【ありがとう】



        って

シナナ 黒菜