「そのつもりだよ。後悔もしてる。だけど…」
彼はそういいながら、ふと立ち上がり、そして机の引き出しの中から二枚の高速バスチケットを取り出した。青森行きと書かれてある。

「金がツキルまでさ、ふらりと旅をしてみたいんだ。とりあえず、俺と一緒に札幌行ってくれないか?金は全部出すから」
「ハぁ?意味わかんないんだけど、ヒトゴロシと知ってて、チクんなかったら、アタシだって面倒くさいことに巻き込まれちゃうよ。つーか、なんで、アタシなのよ。仕事だって・・・」
その時だった。いつの間にかキッチンから果物ナイフを取り出していた彼は、アタシの頚動脈にその刃先を近づけてきた。
「とりあえずよ。何か聞かれたら、ラチられましたってことでいいだろ。絶対、手は出さないし。何にもしないから。一週間だけ、オレに付き合ってくれ」
「…お金ちょうだいよ。食事代や宿泊費のほかに、10万。」

世の中、金さ。
アタシは、そう言って、これまで何度もしてきたみたいに右手を突き出した。甘えるように、けど、なんとなくたしなめるかのように、ワンちゃんに「お手」をやらせるように、振舞うのだ。

彼は、しばらく躊躇しているようだったが、やがて机の引き出しから厚みのある封筒を取り出すと、中から5枚ほど抜き取り、アタシに渡してきた。
「後の半分は、旅が終わったときだ」
「わかったよ。その代わり、あたしに指一本触れた時点で、通報するからね」
「ああ、約束する」

こうしてアタシとヒトゴロシの旅は始まった。