…それからの春人は、本当に、私を襲うことはなく、毎晩キスをして、抱き締めて眠るという。

仕事もプライベートも、有言実行。

尊敬すらしてしまう。

「…でも、ちょっと、寂しいかも…」

外で友人とランチを終えた私は、そんな事を呟きながら、オフィスに戻っていた。

「…?!!!」

突然誰かに引っ張られ、空き会議室に。

「…やだやだやだやだ!!」
「…わっ!ちょっ!落ち着け。俺だ、俺」

「…へ?…」

聞き覚えのある声に、動きが止まる。

「…はる、と?」
「…やっとわかったか」

「…も、もう!驚かせないでくださいよ!怖かった」
「…ゴメン」

ぎゅっと、抱き締められて、少しずつ落ち着きを取り戻す。

「…何でこんなことするんですか?」
「…桜子に触れたくて」

その言葉に驚いて、顔を上げる。

「…俺、どうかしてるな。非常識だ」
「…春人?」

「…毎日一緒にいても足りない。社内で桜子を見つけると、触れたくて、たまらなくなる」

…自分の悩みは、なんてちっぽけなんだろう。

春人はこんなにも私を好きでいてくれる。こんなに幸せなことなんて、他にない。

「…じゃあ、充電してください」

背伸びをして、春人に触れるだけのキスをすると、頬を染め、微笑んだ春人に私も笑みを返した。

…しばらく抱き合って、それぞれの職場に戻る。





「…ブスのあんたに、榊さんは、合わない」

すれ違い様に言われた。

振り返ったけど、後ろ姿では誰だかわからない。

ただ、その後ろ姿は、とても綺麗だった。