呆気にとられる私を他所に、榊さんは、ムクッと起き上がると、ちょっと私を睨んで、洗面所に行ってしまった。

「…なんで、そんなに怒るのかな」

なんてボヤきながら、私も起き上がる。

榊さんが洗面所にいる間に、先に着替えを済ませると、榊さんが洗面所から帰ってきて、私と入れ替わり。

すれ違いざまの榊さんは、やっぱり不機嫌で、どうしていいかわからず。

洗面ついでに化粧もしていると、キッチンの方からいい匂いが漂ってきた。

…機嫌が悪くても、料理はするんだな。

そう思うと、鏡に写った自分の顔に苦笑いした。

化粧が終わるとリビングに向かうと、テーブルには、朝食が並んでいて、カウンターの上には、お弁当が2つ。

…短時間でやってのける榊さんに、思わず拍手してしまった。

「…なんで、拍手なんかしてんだよ?」
「…手際がよくて、尊敬の念です」

私の言葉に、榊さんは、フッと笑った。

…あら、機嫌直った?

「…さっさと座って食べろ」
「…はい、いただきます」

…こんな幸せな日々が、永遠に続けばいいと願ってしまうのは、どうしてだろう?

…今目の前で、素直な笑顔を見せる榊さんに、惹かれるからだ。

…惹かれる。

…惹かれる?

「…好きなんだ」
「…何?そんなに卵焼き好きだったのか?」

「…へ?…あ。…えーっと、そうです、そうです、卵焼きが、大好きです」

「…そんなに好きなら、俺のも食え」

皿に置かれた卵焼き。

…違うんだけどなー。