「あなた、こんなに赤いブーツ履いていたかしら」

「ああ、初めからこのブーツだよ」

その声は、寒さに震えていました。

「やっぱり、戻って休むべきだわ。そうしましょ」

「いいや、もう時間がないんだ」

旅人は、少女が擦っていた自分の手を握り返して言いました。

「お兄さんは、もう体力がない。しんどいから後からゆっくりついていくよ。あんたは、俺よりもっと早く走れるから、先に行って待っててくれ」

「そんなのダメに決まっている。一緒じゃなきゃあなたは」

「俺のことを気にするな。あんたには戻る世界がある。戻る家もない俺になんかなるな」

旅人は少女の手を力強く握りしめました。