「優しい姫のことだから、僕のことを思ってくれることは十分わかっている。けれど、その優しさが時には自分の身を滅ぼすことだってあるんだ。さっき、ここで暮らそうと提案したとき、姫は“わからない”と答えた。それは、まだ姫の中で、帰りたいという望みがあるからだ。その望みを、周りに影響されないようにそっと大事にとっておくんだ。いつかそれが道しるべとなる」

少女は、王子のいうことを聞きながらぼろぼろと泣きました。
王子はそれを拭いながら、続けました。


「僕だって、寂しいよ。姫と過ごした時間は、ほんのわずかだったけれど、とても楽しかった。優しい姫には幸せになってほしいと僕は、心から思っている。
だからこそ、姫には、自分のことを想って、自分で選んで、前へと進んでほしい。
姫の人生は、まだまだこれからだ。後悔しない人生を歩んでくれたら僕の話した経験は無駄ではなかったんだって思える。

さあ、もう行かなくていけない。隠し扉から城を出たらそこはすぐ森で、姫をうまく隠してくれるだろう。姫の行く先に光が照らされるようにしておこう」