そのイケメン、オタクですから!

気が付くといつもの扉の前に立っていて、及川先輩が鍵を開けるところだった。

長机の前に座った及川先輩は、不機嫌な声で「七瀬、コーヒー」と言う。

プライベートと仕事をきっちり分ける先輩は、留愛って呼ぶようになってからも生徒会活動中は七瀬って呼ぶ。
二人きりなのに七瀬って呼ぶなんて、たぶんすごく怒ってる。

色々尋ねたいことはあったけど、私は黙ってポットの前に立った。

場を和ませたいけどここであちゅあちゅホットコーヒーなんて言ったら、きっとすごく恐ろしいことになる……よね。

結局悩んだ末、私は無言でコーヒーを置いた。
先輩はため息をついて、口に含む。

「お前は……昨日、勝手なことはするなって言っただろ」
「だって……」
「どうせ自分が退学になれば全て丸く収まるとでも思ったんだろうけど、おかげで予定が狂った」
「予定?」

先輩が水面下で進めていた計画。
それは卒業した3年生に協力してもらうものだったらしい。

よっちゃんと桜井先輩、及川先輩を除いた名簿の人達のうち、3分の2は本当にアルバイトをしている人達だ。

残りの3分の1は有名大学に合格した3年生が名前を貸してくれているのだという。

卒業した生徒を今さら退学には出来ないし、アルバイトをしていても有名大学に合格できるという証明になる。

だから及川先輩としてはもっと3年生の協力を得てから学校と交渉がしたかった。

それなのに私のせいで、今日切り札を使うことになってしまった、ということだ。