「先輩?」
ほっぺをツンツンしてみる。
……固まってる。

今度はほっぺをつねってみる。
……固まってる。

大丈夫かな。
こういう時、お姫様の目を覚ますには……。
キスしてみようかな。

あ、でもこれじゃ王子様とお姫様が逆転。
……場違いにも馬鹿なことを考えちゃった。

「……あ?」

留愛って言った?
「はい、及川先輩」

「ナ……ナ……?」

「はぁい、ゆうぴょんご主人様ぁ」
1オクターブ高い声で返事をしてみる。

及川先輩は顔を真っ赤にして、ベンチの端っこまで後ずさった。
背もたれのないベンチだから、私は「よいしょ」っと乗っかって先輩の横に座る。

「家の事情でバイト辞められなくて、学校にばれないように変装して通ってたんです。仕方ないって思ってたけど、先輩の公約のポスター見て、ありのままの自分で学校に通える日が来るかもしれないって思ったら嬉しくて、生徒会に入ったんです」

先輩はうつむいたまま何も言わない。
一方的な懺悔だってわかってるけど、私は話続けた。

「初めは先輩にばれたら先生に言われると思ってびくびくしてて、先輩と親しくなればなるほど嘘ついてたことで嫌われるのが怖くなって、公約が実現したらって自分に言い訳してたんです。ずっと。本当に……ごめんなさい」

嘘をついていたんだから嫌われても仕方ない。
だけど斎藤先輩の言いなりになるつもりはなかった。

これだけは自分で先輩に言いたかったから。