世界にひとつのどこにもない物語

まずはメイクを落としがてら、シャワーを浴びに行かなければ…。

慌ただしく用意をするまやの様子を、クスリと狼谷はベッドのうえで笑った。

「何ですか?

何がおかしいんですか?」

それに気づいたと言うように聞いてきたまやに、
「いや、昨晩と態度が違うな思て」

狼谷はクスクスと笑いながら答えた。

「昨晩は子供のようによう泣いたのに、今朝になったら元の顔に戻って慌ただしく支度を始めとるんやもん。

だから、おかしいな思て」

不覚にも、泣き顔を見られたことを思い出した。

だが今は過ぎ去ってしまった出来事に文句を言っても仕方がない。

「早くベッドから降りて部屋から出て行ってくださいな。

あなたに見られてたらすぐに終わる支度もできません」

シッシッとまるで野良犬を払うかのような手の動きをしたまやに、
「はいはい、邪魔者は大人しく退散させてもらいますわ」

狼谷はベッドから降りた。