世界にひとつのどこにもない物語

「何も言わないで、黙って私の前から立ち去って…。

一体何があったのかよくわからなかったんです…。

彼に対して何をしたのかよくわからない、私の行動で何か気に入らないことがあったのか、彼が私のことを嫌いになったんじゃないかといろいろと考えたんですけど、わかりませんでした…。

考えた末に出てきた結論が…」

「結論が、何や?」

まやの目から涙がこぼれ落ちた。

「――嘉門くんが、私を裏切った…でした」

「う、裏切った?

何でそう思ったんや?

誰かに言われたんか?」

狼谷の質問に、まやは首を横に振った。

「嘉門くんは私を裏切った――そう思ったら、もう誰のことも信用できなくなって、もう故郷にはいられないって思いました…。

故郷から逃げたい、誰も私のことを知らないところへ逃げたいって、そう言うことばかりを考えるようになったんです…」

まやは声を震わせ、泣きながら話した。