「必要でしたら、何か飲み物を…」

「もう大丈夫や、えらい心配をかけてもうたな」

まやの言葉をさえぎるように、狼谷は言い返すと笑った。

狼谷は額に手を当てると、深呼吸をするように息を吐いた。

「本当に大丈夫ですか?

もしよろしかったら、私が運転して家までお送りしますけど…」

「気持ちだけで充分や、おおきに」

狼谷の顔色がよくなってきているので、彼の言う通り本当に大丈夫なようだ。

「じゃあ、私は家に帰ります」

そう言って狼谷の前から立ち去ろうとしたら、
「家って、さっきのアパートか!?」

彼が驚いたように言って、まやの手をつかんできた。

「そ、そうですけど…。

火事と言ってもボヤで、出火したところは3階の角部屋なので…ああ、私は1階に住んでいるんですけど無事だったみたいで」

「行くな!」