世界にひとつのどこにもない物語

「狼谷さん、しっかりしてください」

苦しそうに息を吐いている狼谷に向かってまやは呼びかけた。

「歩きますから、ちゃんと足を動かしてくださいね」

そう言ったまやに狼谷はゆっくりと首を縦に振ってうなずいた。

「すみません、通ります。

気分が悪くなった人がいるんです」

野次馬に向かって呼びかけたら、彼らは道を開いてくれた。

その道をたどるように、まやは狼谷と一緒にその場を後にした。

車を止めているコンビニに行くと、ドアの横に置かれているベンチに狼谷を座らせた。

「狼谷さん、大丈夫ですか?」

顔を覗き込んで背中をさすりながら、まやは狼谷に声をかけた。

狼谷はうつむいていた顔をあげると、
「…ああ、すまんな」

やっと答えてくれた彼に、まやはホッと息を吐いた。