世界にひとつのどこにもない物語

狼谷の切れ長の瞳は、見開かれたままの状態で色を失っていた。

顔色が悪いように見えるのは、自分の気のせいだろうか?

「か、狼谷さん…?」

(一体何があったんや…)

名前を呼んだまやに、狼谷は目の前の光景から目をそらすようにうつむいた。

ガクンと、彼が膝から崩れ落ちた。

「狼谷さん!」

名前を呼んでいると言うのに、狼谷は返事をしようとしない。

気分が悪くなったのだろうか?

「天都さん、大丈夫なのかい?

何かその人の様子がおかしいみたいだけど…」

大家さんが心配そうに声をかけてきた。

「もしかしたら、気分を悪くしたのかも知れないです。

どこか落ち着けるところへと連れて行きます」

まやは答えると、狼谷の腕を自分の肩にかけた。