世界にひとつのどこにもない物語

「それでは、私はこれで」

まやは男に頭を下げると、早足でその場から立ち去った。

「あっ、ちょっと!」

男の呼び止めようとする声を無視すると、まやは病院を飛び出した。

病院の外に出ると、タクシー乗り場へと走って向かった。

そこに客がくるのを待っていたタクシーに飛び乗ると、まやは運転手に行き先を告げた。

「すみません、B町にある『B.C. square TOKYO』前の交差点で降ろしてください」

行き先を告げたのと同時に、
「はい、かしこまりました」

タクシーが発車した。

「あっ、おい…!」

バックミラーに映った男の姿にまやは気づかないふりをすると、窓の外に視線を向けた。