世界にひとつのどこにもない物語

まやはさっと握られた手を離すと、
「あの…仕事がありますので、私はこれで失礼します。

お姉さんには頑張って元気な赤ちゃんを産んでくださいとお伝えください。

安産を祈ってます」

早口で言った後、微笑んだ。

「ちょっ、ちょっと待ってください!

せめて、名前だけでも教えてください!

姉と産まれてくる姉の子供にあんたの名前を教えたったいんです!」

「は、はあ…」

男はまやが立ち去ることを許してくれないようだ。

仕方がないので、
「天都まやです」

まやは自分の名前を名乗った。

「あ、天都まや…?」

男は驚いたと言うように切れ長の目を大きく見開かせた。