不器用な彼に恋した私。

凝視するのをやめた翔さんは、その位置のまま、私を見上げた。
丸い大きな瞳に、泣きそうな表情を浮かべている私がいた。

「この痕跡キスマーク、あの同僚だろ?」

二度も、聞いた翔さん。
ピクリと肩が揺れた。
その反応を見た翔さんは呆れて、肩から手を離した。
そして、手を会議室の長い机に置いて、ため息を吐いた。


「ごめん・・・なさい。」
「なんで謝る?良かったじゃん、お前ら仲良くやってるじゃん。」

“何で謝る?”
と言いながら目が合う翔さんの瞳が微かに揺れて泣きそうだった。

その表情を見て、私の目から涙が落ちた。
翔さんの表情が歪んだ。


なんとか弁解したい。
“拒否した”“翔さんが脳裏に焼きついていて”

とにかく、辛い。
だから、会いたくなかったんだ。


「違うんです。」
「何が違うんだ。ちゃんと愛の証が付いてる。
告白した、俺が悪かったよ。」

「違います、話を聞いてください。」
「話を聞かなくても分かってる!



付き合ったこと、なかったことにでも出来る。
俺たち、まだキスも何もしてない。今なら戻れる。」


翔さんは声を震わせた。



「まぁ、とにかく付き合ったことは無かったことにしよう。」



ふさふさと睫毛を揺らしながら。



一番、聞きたくなかった言葉だった。
昼休みに、カコに相談した。二宮からされたことも。翔さんに嫌われたかもしれないって心配事も。
カコはまっすぐ私を見て言った。
“もし、その痕跡キスマークが見つかったとしても弁解するのよ。”

いつも、カップラーメンを食べてる翔さんが社内食堂で日替わり弁当を買う姿を見つけた。
ため息ついて、何かを考えているようだった。



もしかして、その考えてたことって・・・。

“こういうこと”だったの?
だから、出張前の説教を口実に、残らせたの?








「翔さん、サイテーです・・・。」
静かな会議室にその言葉を落とした。
翔さんは拾うことなく、ただ黙っていた。

下を遠くに見つめる翔さんから背を向けて、会議室から走って出た。


病み上がり、少しでも浮かれてた私がバカだった・・・。



走って泣いていた。
ガラス張りの渡り廊下。
日が暮れていく空を見つめながら泣き崩れた。


そんな私に誰かが笑い声を掛けた。


「ぐっしゃぐしゃ。笑」
二宮だ。
ぐしゃぐしゃに泣く私に近づいてしゃがみ込んだ二宮は、優しく抱きしめた。