不器用な彼に恋した私。





で。
終業時間終了後3分以内についたけど。
会議室の扉前。

“会議室。終業時間終了後、5分以内に来い。”
って、超必死で言われたから。
胃がキリキリ痛みだす。



覗き見防止でフィルムを貼っている会議室のドアのガラス。
モザイク調というか靄がかかった感じで、よく表情とかが分からないが、中でスーツの人がゆらゆらしている。
輪郭はハッキリ捉えることができる。


ドアノブ握りながら、手汗をにじませる。
今から説教なのか。説教なのか。

説教
説教
説教
説教
説教


脳内、その文字だけが並ぶ。
混乱しながらも、ふうっとため息を吐くと、ドアを開けた。


会いたくないんだけどね。







「あぁ、井上。4分59秒だったな。ギリギリだ。」

わ、細か。
これぞ、仕事が出来る人なのか。



「す・・・すいません。遅くなりました。」
「嘘つくな。ドアの前でうーんとか唸ってたくせに。覗き見防止のフィルムを貼っていたとしてもガラス越しに見える。」

この人に嘘はつけなさそうです。
私は深々と礼をして謝る。

翔さん見るたびに、胸が痛いから、早めに謝罪を済ませて、残業を終わらせて、北海道出張の準備をしよう。


視界の先。
パンプスのつま先と床が見えた。
後、無造作の髪の毛がゆらゆら、私の体が震えるたびに揺れる。



ずっと瞬きもせず、床を見ていたら、その視界に黒い革靴の爪先が視界に入ってきた。



「その・・・赤いキスマーク。なんだ?」

ギクリ。
肩が揺れる。

揺れた肩をガシリと男らしい指の手が掴む。
グッと上げられ、視線がバチッと空中で交わる。

髪に翔の指が触れる。
ビクッと反応してしまう。


髪を横に分けて、首を凝視する翔さん。
まん丸の二重の目がきょろきょろ。
いつも遠くで見ていた目がこんなに近くに。


恥ずかしさで目をつぶる。


「これは二宮のだろ。」
「え?」

「二宮、今日井上の髪触りながらキスマークを誇らしげに見ていた。」


視線を一切、逸らさず首を凝視しながら、翔さんは話す。
胸がぎゅっと痛む。目頭が熱くなった。

肩をつかむ手に力がこもっていた。