翌日。
朝起きると、誰かの声がした。
「おは、よう...?」
恐る恐る声をかけてみた。
「あ、颯。起きたか。」
お兄ちゃんだ。
「颯、腹減ってねぇか?おにぎりとお茶買ってきたけど...」
ガサガサと音が聞こえる。
はい、とお兄ちゃんがおにぎりを手渡してくれた。
ご丁寧に、包装まで破いてくれてある。
「ありがとう」
私はおにぎりを頬張った。
あ、私の大好きなツナマヨだ。
「颯、あんたを轢いた犯人ね、まだ逃走中なんだって。」
お母さんがそう言ってため息をついた。
私は黙っておにぎりを頬張り続けた。
そういえば、昨日の着信は誰からだったんだろう。
「ねえ、お兄ちゃん。私のスマホの着信履歴見てくれない?昨日の夜に誰かから着信があったんだけど、出られなくて。」
「そうか。ちょっと待ってろ...あ、あったぞ。えっと、『桜田 凱士』だってさ。友達?」
さ、桜田?なんで桜田が...?
もしかして、私のことを心配して...?いや、桜田に限ってそんな訳ないよな。
「お兄ちゃん、そいつにかけてくれる?」
私が切羽詰まったように頼むと、お兄ちゃんは驚きつつも桜田にかけてくれた。
お兄ちゃんからスマホを受け取り、耳に押し当てる。
何回かのコールの後、桜田が出た。
『もーしもーし』
「桜田?昨日電話くれたみたいだけど何?」
私は少し強めの口調で問いかける。
『ああ、あれね。霧崎にカラオケ代払ってもらう予定だったのに逃げやがったからどういうつもりかなーと』
「...は?」
私は耳を疑った。
確かに私は行きたくないと言った。
でも何でそれが高額な代金を払うほどの罪になるの?
それから、私は事故にあった。
逃げたわけじゃない。
私だって事故にあいたくてあったわけじゃないのに、心配さえしないうえに私が行っていないカラオケ代を要求されるなんて。
てかその前に、仲間が事故にあったっていうのによくカラオケなんか出来たもんだ。
『おーい、聞いてる?金払えっつってんだけどー。』
「私がどんな状況か知ってんの?」
『はぁ?んなもん俺の知ったことじゃねぇよ。どーでもいいから早く払えっての!』
「ふざけないでよ!」
私はそう怒鳴りつけて、お兄ちゃんにスマホを渡した。
「もういい。切っといて。」
「え?あ、うん。」
信じられない。
あいつらが悪いやつだってことくらい知ってたけど、ここまで冷酷非情な人間だなんて。
それに、この一年間で私が積み上げてきたものは何だったのだろう。
泣きたくなった。
何も言わない私を心配してか、お母さんがどうしたのと聞いてくれたけど、私はどうすることも出来ず、ただただ果てしない孤独と哀しみに暮れていた。