馬舎についた三人はすばやく馬から降りる。

「龍星、こちら……」

雅之は言いかけて、言葉を止めた。
何も無い空間を、龍星が睨みつけていたからだ。

「後で行く」

翁と雅之を先に行かせ、龍星はそこに見えるものに声を掛けた。

「ここで何を?」

それは、いつぞや女の部屋から追い出した少年だった。
酷く震えた顔で、そいつは言った。

「真竜が、急に倒れたから。
 心配で。
 
 折角一緒に遊んでたのに」

「まりゅう?」

龍星は訝しむが、少年は嘘をついている様子は無い。
毬がそう名乗ったのだろうと受け取った。

「そう、あの子の名前。
 オラと遊んでくれるって言ったんだ。
 迷子になって泣いてたら、手を差し伸べてくれたんだ」

……自分が放してしまったあの手を。

龍星は不覚にも胸の奥がちくりと痛んだ。

「だから一緒に遊んだのに。
 なんで、こんな」

少年の瞳から涙が溢れる。

……死んでいる自覚がないのだろうか。

龍星はため息を飲み込んで、馬舎の中へと急いだ。


その背中に、少年の泣きじゃくる声が飛ぶ。


「真竜は良い奴なんだよぉ。
 一緒に大きくなって、二人で酒を酌み交わせるような親友になるって、約束したんだっ」


龍星は知らず、唇を噛み締めていた。