――御所にて

龍星は長ったらしい会議の中にいて、内心うんざりしていた。
背筋を真直ぐ伸ばし、時折余裕の笑みすら浮かべながら有益な意見を口にし、それなりに参加しているふりはしていたけれども。

長い長い時間の後、御簾の向こうで、会議に参加していた帝がぱちりと扇子を鳴らして全ての会議に終わりを告げた。

これ幸いと立ち上がろうとする龍星を、帝が呼び止める。
龍星は躊躇うことなく不機嫌な目つきで帝を見る。

くすり、と、帝が笑いを漏らした。
悪戯を考えている子供のような笑い声だ。

「龍星、今日ばかりは私に呼び止められたこと、感謝すると思うぞ」

人払いをした後、帝は口を開く。

「先ほど、千から手紙が届いた。
 昼間にさえ手紙をくれるとは、愛しい女だと思わぬか?」

御台……つまり正妻……の自慢を始めた帝に、龍星は閉口する。
いつまでも独身である龍星への嫌がらせだろうか。

「そうですかね。
 独り者故、私にはまだ分かりかねますが」

涼しい顔で冷たく応える。

「相変わらずつれないなぁ。
 でも、そうも言ってられなくなると思うけど?」

何かを隠している風にもったいぶる帝。

「何が?」

「楓……左大臣家の良くできる女中のことだよ……が、街で千にそっくりな少年を拾ったんだって。」

龍星の顔色が変わるのをみながら、帝はくすくすと笑う。

「あれ?
 心当たりでもあるの?
 すごい美貌を持った少年に。
 龍星がいつまでも独り身なのはそういう趣味だから?」

「帝っ
 言葉をお慎みくださいっ」

口を開いた言葉は、自分でも想像以上に険しくなっていて慌てて飲み込んだ。
その様子を御簾越しに見ていた帝は子供のようにはしゃぐ。

「あ、少年の格好をした少女、だったかな?」

龍星はばさり、と、音を立てて立ち上がった。

「それにしても、本当だったんだ。

 あの子がここに戻ってきているって言う噂も。
 龍星が【誰か】と一緒に暮らしているって言う噂も」

その帝の声に剣が篭っていることにも気付かないくらい、龍星は急いで出て行った。