「待てよ、太一っ」

先に太一が走る。
彼は途中で北に方向を変えた。

そっちは毬の行きたい方じゃない。
そっちは、都の中心だ。

「早く来いよ、真竜」

太一がちょっと先で振り向いて笑う。
全く息を切らしていない。

「ちょ・・・俺・・・疲れた・・・」

毬は立ち止まった。
いつからか、体中がぞくぞくする。
頭が痛い。

割れそうに。

「毬、様?」

顔見知りの女性に声を掛けられた。
ああ、あれは……左大臣家の女中、楓だ……

でなければ、少年の格好をしている毬のことがすぐに分かるはずがない。

「かえ、で?」

しまった。太一にこのやりとりが聞こえてなければいいのだけれど。


毬は意識を失いながら、そんなことを祈っていた。