「オラ、太一っていうんだ。
 お前は?」

元気を取り戻してきた少年が笑顔で聞く。

「まり……真竜(まりゅう)」

毬はとっさに嘘をつく。

「へぇ、変わった名前」

「そうだろ?
 でも、馴れると気に入るもんだぜ」

毬は出来るだけ低い声で喋れるように気を遣いながら、言葉を発した。

「馴れると、か」

少年は一瞬淋しげな顔になり、直後にこりと笑って見せた。

「俺たちも馴れるともっと仲良くなれるかな?」

「そりゃそうだろ。
 きっと、大人になったら二人で、酒を飲みながら笑いあえるような、そんなんになれるさ」

毬は龍星と雅之の関係を瞼の裏に思い出しながら言った。
本当に、男だったら良かったのに。
そしたら、もうすぐ二人と一緒にお酒を飲んだり、御所で働いたり……できるのに。

「いいな、それ」

「だろ?」

少年が手を離して駆け出した。
毬もその後を追う。

幸い、健脚はまだ衰えていなかった。