路地裏で泣いているのは、小さな男の子だった。

「どうした?」

毬が声を掛ける。
少年風の格好をしているので、自然と喋り方もそうなってしまう。
嵐山に住んでいた時、仲間と楽しく過ごす為に身につけた癖だった。父親である左大臣と暮らし始めて、それは禁じられたし、龍星や雅之と一緒に居る時は姫の格好のままやんちゃなことをしても咎められないので、毬が今回言葉を使うのは随分久々のことだった。

自分が思うより声が高くなっていて、毬は一瞬戸惑った。

「家から追い出されたんだ」

毬より幾分年下の少年はそういうと真っ直ぐ毬を見た。硝子玉のように澄んだ瞳で。

毬は昨日雅之がしてくれたのを真似て簡単に手を差し伸べる。

「一緒に遊ぼう」

少年は戸惑いを見せたが、すぐににこりと笑って差し出された毬の手を掴んだ。


それは、ひんやりと冷たい手だった。