制服からして、私と同じ高校。

ネクタイを見るとそれは深緑色をしていたから、どうやら私と同じ学年らしかった。

高校、1年生。


『この席どうぞ!』


更に男の子の声が響く。


どう見ても、その席はおばあさんから距離があった。

本来なら譲ろうとは思わないだろう、その座席。


でもおばあさんの近くの席は全部埋まっていて。

(非常識な人たちで。)


男の子はたぶん、見ていられなかったんだろう。


みんながちらちらと男の子を見る。

おばあさんは男の子の気持ちを汲み取ってか、『ごめんねぇ』と言いながらゆっくり車内を進む。

周りの乗客はおばあさんが歩きやすいように進路を空ける仕草を見せて。


そんな中、私はなんとなくその男の子が気になっていた。


私だったらきっと、そんなことできなかったと思う。

そこの人、席譲りなよ!って思いながら、自分では何もできなかったと思う。


さっき大きな声を上げた男の子は、今は物腰柔らかい動作でおばあさんの手を取っていて。

差し伸べられた手を握りながら感謝の意を述べるおばあさんに、

『僕、次の駅で降りるんで気にしないで下さい』

と優しく微笑んで隣りの車両に移って行った。



電車が止まって、駅のホームをずっと見てた私。

彼は、次の駅では降りなかった。