今考えれば、砂かけババアって妖怪じゃんって思うし、男の子はブランコを使いたかったのに公園から逃げ出したら、何の意味も無いじゃんって思うんだけど、その男の子は笑って、


「ありがとう」


と言った。その時、お面越しに彼を覗きながら、幼な心に何て綺麗な子だろうと思ったことを覚えている。

その子は綺麗な色の金髪に、薄い茶色の瞳を持った男の子だった。わたしはその時、その子は天使か、それとも王子様か何て思って、少し頬を赤らめた。


お面を取ると、「この辺に住んでるの?」と聞いた。

男の子は首を縦に振ると、
「今日引っ越してきたばかりだよ」と答えた。



「へえ、そうなんだ。何て名前?わたしは、山内 美香だよ」


わたしは未知なる男の子に興味津々で、どんどん質問していった。


「僕は宇佐 春樹(うさ はるき)だよ。宜しくね、美香ちゃん」


彼は天使の様な微笑みを浮かべると、可愛らしい声でわたしに言った。



「…あ、そうだ。 僕あの公園でお母さんを待ってなきゃいけなくて」


「どうして?」


さっきとは打って変わって困った様に眉を下げる彼を見て、どうして?とわたしは聞いた。

今から公園に行こうとしたわたしも大概だけど、今日は曇り空で、もう直ぐ雨が降りそうだった。
雨が降る前に、家に帰った方がいい。



「えっと、お母さんが今、引っ越しの荷物を片付けてて、その間僕は公園に居てって言われたから」


彼は一生懸命に言葉を続けると、尚も困った様な顔をした。


「でも、雨降るって言ってたよ?それに、公園はジャイアンが居るから、近寄れないよ」


わたしが言うと、ジャイアン?と一瞬不思議そうな顔をしたけれど、直ぐ理解したように「そうだよね。どうしよう」と頷いた。