彼女から貰ったアルマーニの時計を付けたまま。
また、いつものように収録のために、楽屋に向かう。



「…うぉっ。」



ドアを開けた瞬間。
珍しく、マツが独りきりでゲームしてた。



「あれ、俊とかは?」

「皆個人の仕事でまだ来てないですよ。」



“そっか。”
そう、返事をした俺は、楽屋に備えられてる水とチロルチョコを有り難く頂く。
ペリッ、とフィルムを剥いているとき。

マツはまたまた珍しく、ゲームをセーブして、ゲーム機を閉じた。




「ねぇ、悠人。」


その雰囲気に、少し異様さを感じた。
露わになった、正方形の小さなチョコレート。



「ん?」


口に含んだ。




「悠人、俊さんの奥さんに惚れたでしょ。」



ニガ甘い。




「は?」


口に含んだまま、とんでもないことを言い出すマツについ。
ビックリしてしまう。



“もう、バレバレなんですよ。”




「すいませんけどね。
携帯にやにやしながら?見てるのは完全に恋した証拠ですし。
誕生日会の時には?目は完全に皐月さん行き。
それに昨日、悠人と俊さんの奥さんが、車の方へ走り出してたところ。
ワタシ、見てたというか、出くわしたというか?」



口の熱で溶けたチョコレートが胸の中でへばり付く。




「好きじゃねぇよ…。」




マツは不敵な笑みを浮かべた。


“俺は?こう見えてそういう禁断愛に肯定的ですよ?”




「好きになったら仕方がないじゃない、っていうのが俺の本音。」




頭が痛い。
密かな想いが、もう、メンバーにバレてしまった。


目を大きく見開けば、マツはもっと笑った。




「ふはははっ、何てね。悠人、冗談。
急いでたんですよね?
まさか、悠人がそんな世間を敵に回すような事、するわけないですよね。」



あぁ、頭が痛い。
そのセリフが、もっと俺を縛り付けて。

マツはトドメという刃を俺に刺すように。
くすり、鼻で笑った。


そんな時。
その他メンバーががやがや、話で盛り上がりながら楽屋入りして。
マツはまた、ゲームを再開した。







「悠人、顔色悪いよ?」


「えっ…?あぁ、大丈夫。」


誤魔化す様に、またチロルチョコレートに手を伸ばしてフィルムを剥がした。
口に入れると、今度はイチゴだったよう。


甘さが、胸を、ぐっと、蝕んだ。






その甘さが逆に罪悪感を増すものになった。






それから収録も、終わり。
ゲストさんと会話を少しだけして、戻ってきた楽屋。

楽屋で、力なく、置かれていた鞄。
鞄から手探りで取ったスマホの通知を受けたという、ライトが点滅していた。



スマホの液晶に、目を疑った。







≪新着メッセージが届いています。≫







その表示で、衝動的にセキュリティを解除したスマホ。







皐月:この間は、最低だなんて言って、すいません。



嘘…だろ?

その謝罪に、驚いた俺は、スマホを鞄にしまった。
既読、付けたまま返事しないなんて、悪いやつだとは思う。

だけど、この言葉に何て返信すればいいんだよ…―――――――。




「ねぇ、ハルハル!
明後日のオフ、空いてたりする!?」



「え?、まぁ、空いてるけど…。」


リーダーがひまわりみたいな笑顔で、俺を見つめた。



「今度さ、母ちゃんが誕生日だからさ。
その洒落てる趣味で、誕生日プレゼント選ぶの、手伝っちゃってYO★」



「別に、良いけど。」


洒落てる趣味か。
少しだけ、頼られるのは嬉しいかも。

少し晴れない気持ちの俺と笑顔を浮かべるリーダー。
2つ返事で決まった今週土曜のオフの日。


最近、生活に役立つものも、かなり進化して来てるから、それもいいな…、とか考えてるうちに。
少し、気持ちが楽になったのかもしれない。


前、バレンタインのお返しで女子に制汗剤を送ったという、リーダーに。

救われたのかも、しれない。







水を口に含みながら、台本を読んでいたら。
リーダーからLINEが来た。


リーダー:悠人の家に迎えに行くねー。


リーダー:…そう言えば、悠人の家何処?



知らないのかよ。笑




「悠人っちーーー。映画撮影、行くから、準備しろやー。」


マネージャーが、楽屋の扉から少し顔を出して準備するように促された。




「じゃあ、悠人、頑張れよっ。」

俊が満面の笑みで、送ってくれるけど。



「あぁ、頑張る。」


正直、話したくないんだ。
俊の奥さんである皐月さんに好意を持ってるなんて、気づかれたくなくて。


突っ走る、思いに嘘は付けなくて。



だから、そっと上っ面で笑って、楽屋を出てった。