月と太陽 ―Moon is beautiful―






「それなら、ワタシも言いますけど。」

怪しげな笑みで、空っぽになった枝豆ちゃんを空のお皿に落としたマツ。




「俺は、悠人と皐月さんを東京駅前で抱き締めあってるとこ。
見ちゃったんですけど?」




マツは昔から勘が鋭かった。
下積みの時も、俺が虐められてた時、マツはすぐに俺の気持ちを見破った。
ゲームばっかして、聞いてないようにしていても、話の内容聞いていたり。
空気を読んだり。
人の心を見破ったりする人だった。


マツの言葉に思わず、息が止まる…―——————。


ってことは悠人も、フリン、してるって事…?
じゃあ、あの言葉も…。


“リーダー、ごめん。
親が今、大変なことになってて。
また、呑もう、誘うから。”


嘘だったって事?
俺っち、嘘吐かれたの?


息を止めて、必死に状況呑み込もうとする俺っちをマツは笑った。



「ふははははっ!!何騙されてんのよ。
嘘、もうこれだから馬鹿は…。」


「ば、馬鹿って不謹慎だぞ!!」



なんだ、嘘だったんだ。
それに、何を疑ってるんだよ、俺っち。

メンバーを信じないといけないでしょ…―—————。




「でも、俊さんは分からない…ですネ?」



その言葉に、その怪しげな笑みに。

ドクッ、と怪しげに胸が高鳴って。
思わず、唾を飲み込んだ。




***


この時の俺っちはリーダーのクセに何にも知らなかったんだ。

俊ちゃんの浮く気持ち。
悠人の皐月ちゃんに対する気持ち。


何にも分からなかったんだ。


だからだ。


亀裂が入ってしまったのは分からなかったからだ。
俺っちたち、分かりあえてたつもりだったんだ。


ねぇ。


俺っちたち、また、円陣組んで、笑いあいたいよ。


ねぇ。


神様、俺っちにどんな罰を与えてもいいから。



また。

あの日みたいに、メンバーと笑わせてください。









【悠人 Side】







ちょっとだけ、胸が躍る。
多分、皐月さんのおかげかもしれない。



「番組始まりますっっ!!」

リーダーの明るい声で収録が始まった。
翌日は待ちに待った、サーフィンの約束の日。
午後5時、東京駅前、俺の車で。
湘南の夜の波に乗る。


思うだけで、胸が躍る。



相変わらず俊はハイテンションで。
クイズに答えたり。
用意されたアトラクションでぎゃーぎゃー騒いだり。


…明日、自分の妻がほかの男と出かけることも知らねぇんだろうな。
なんて思うだけで、なんだろう。
前とは違って。


ゾクゾク、する。




「あら、悠人。
今日、全然答えないじゃないですか。」


クイズの時。
いきなり、マツは虚を突く。
でも、思いすぎもいけねぇ。
仕事が手に着かなくなる。




「あぁ。最後のヤツ狙ってるから。」


嘘を吐けば、大観衆が沸いた。



それから何時間くらい収録したのだろう。
休憩含め3時間はしたのではないだろうか。
休憩の時間には皐月さんからきたメッセージにレスポンスする。



皐月:明日、雨かもしれませんよ。



楽屋のテレビが告げる。
“明日の東京都心は、雨になるでしょう。”



内田:雨でもいいじゃん。良い波が来る。


既読は直ぐに付いた。



皐月:そうですけど、あまり荒れないといいですね。



天気なんてこんなに気にしたことが無かった。
毎時間、天気予報が流れるたびに、体がテレビに無意識に向いてしまう。





「…っ悠人!」


突然、いつもとは違った面持ちで俺の名前を呼んだリーダー。
其の声に他のメンバー(マツ以外)も視線をリーダーに向ける。




「どうした…?」



「昨日はありがとうね!」



いつもと違う雰囲気に、勘の鋭い俊君は読んでいた新聞を畳み始める。



————どうしたのだろう。


もしかしたら、昨日、嘘を吐いていたことがバレてしまうのでは。


親が大変なわけがない。

親が大変だったら今頃、仕事仕事言ってらんねーだろ…―———





「あのさ…」


「どうした?リーダー。
気分でも悪いの?、悠人に漢方薬出してもらいなよ。」



珍しくここの雰囲気は、“ただの体調不良”と捉えた俊は、眉毛を下げて笑った。
リーダーが、こんな風に体調不良を訴えることは無い。


少し、寒気がしていたら。
楽屋の窓をガタガタと揺らすような激しい雨が降りはじめた。