「だって柊に風邪移っちゃう」
これならどうだ!
移ると困るでしょ?さあさあ。退きなさい。
相変わらず位置はそのままで、あたしは柊と見つめ合った。
逸らしたい衝動に駆られるけど、変な意地が出てきちゃってグッと堪えた。
「……いいよ?聖の風邪なら」
「…………」
『鳩が豆鉄砲を食らったよう』というのはまさにこういう時に遣うんだろう。
予想外の返答に返す言葉も失ってしまった。
移ってもいいだなんて、馬鹿じゃないの?
普通嫌でしょ。
いくらなんでも恋人だからって……っ。
「……ばか柊」
「…………」
「何か言いなよ……っ」
なんで黙ってるのよ。こういう時だよ頑固になるところ。
なんであたしは泣いているんだろう。
視界が歪んだことに気付いて思った。
あぁ、そっか。罪悪感だ、きっと。
「……ごめんね、クリスマスデートできな、……っ」
言葉が途切れたのは柊がキスを落としてきたから。
とても優しいキスで、涙がさらに溢れ出た。



