”………ふふ”

あの電話の笑い声を思いだし、背筋がぞくっとする。

「どうした?」

桜井刑事は不思議そうに私の顔を覗きこむ。

「ふふって…電話に出た人物は笑ったんです。あれは絶対にみちるの声じゃなかった。でも、女性でした」

「女性…その声の主に心当たりは?」

私はその問いかけに口をつぐむ。
言っても良いのだろうか。

「…あるんだな」

桜井刑事の指摘に私は動揺する。
刑事さんにはお見通しのようだ。

「桑原弥生…中学の同級生で、亡くなった3人と私ともうひとりの5人で……いじめていました」

「いじめていた…君がそんなことするようには見えないけれど」

「正確には私は、見てみぬふりをしていたんです。仲が良かったのに、弥生へのいじめが私に飛び火しないように。しばらくして弥生は転校しました。それから会っていません。弥生は私たちを恨んでいるんです。彼女以外考えられません」

「”くわばらやよい”か…調べてみる価値はありそうだな」

桜井刑事はYシャツのポケットからペンと手帳を取り出し、何かを書き始める。

「これ」

彼は何かを書いた手帳の1ページを破り、私に差し出す。

「私の連絡先だ。何かあったら連絡しなさい」

受け取った紙には彼の携帯番号と思われる11桁の数字が記されている。

「ありがとうございます」

「その”くわばらやよい”が犯人ならば、君も狙われる可能性がある。家までおくろう。帰り道に”くわばらやよい”について詳しく聞かせてくれるか」

「…はい」