さがしものが見つからない

帰りのSHRが終わると、教室はどんちゃん騒ぎ。

大声をあげて笑い合う女子。
下ネタを武器にニヤニヤ笑う男子。
そして、放課後遊びに行くのにワクワクしている春香。

「たっのしみだな〜、パフェ」

「そうだね」

るんるんと無邪気な子供みたいに今にも駆け出しそうな春香に、私は薄く笑みを浮かべる。

「好きだね、甘いの」

「うん、甘いものがあれば私は生きていける」

「本当にありそうで怖いわ」

むふふっと笑う春香は、クラスの誰かから仕入れたであろう話を振ってくる。

そのまま玄関までくると、話しながら靴を履き替えた。

「アリス」

玄関を出ようとする私を引き止める声に、私は足を止める。
振り返ると、変に緊張して硬い表情をした男子が立っている。

玄関の暗がりの中、よく目を凝らすと昼間に話しかけてきた男子だ。

「話があるんだけど・・・今、いいか?」

真剣な目をした彼が、私をまっすぐ見る。
私はちらりと隣にいる春香を見る。
春香は、何かを悟った顔をして笑う。

「あ! 私、スマホ教室に忘れちゃった。取りに行ってくるね」

「え、あ、春香」

いらない気を利かせた春香の背中が、廊下の角に消えて行く。
男子とすれ違い様なんか、顔を見合わせていたから共犯だ。

「あ、あのさ、アリス」

「・・・なに」

私は、少し不機嫌そうに答えた。
男子は急におどおどして狼狽えた。
そりゃそうだろう。
あまりに態度が違うから。

「俺、中学の時から、お前の一生懸命なところとか、何でもこなせるところとか、ずっと憧れてた」

「そう」

「俺、今は頼りないかもしれないけど、いつか頼れる男になる。それくらいお前のことが好きなんだ。・・・付き合ってほしい」

ここにも、いたな。
憧れを恋に変えた奴。
というか、前から好意があるのは知ってた。
それに、出す答えも。

「・・・ごめん。無理」

「そっか。・・・んじゃさ、友達でもいいから、また話しかけてもいい?」

「別に、それはいいよ。ただ」

「ただ?」

「あんただけじゃないけど。私は、来るもの拒まず、出るもの拒まずだから。居ようが居まいが、どうでもいいの」

男子が、目を見開いて言葉を詰まらせる。
私の冷ややかな目が、男子を射抜く。

「話は終わり? なら、もう行くね」

私は、先に校門の前までくると、春香にLINEのトークで終わったことを知らせた。

「あるかもわからないものに賭ける気持ちが、わからない。・・・そんなの虚しいだけでしょ」

そう呟いて、ふうっと息を吐く。
それから、フッと口元に笑みが浮かぶ。
それは、自分の吐いた言葉に傷ついている自分への自嘲の笑み。

「まぁ、私が言えたことじゃないんだけどね・・・」

スマホの画面を閉じて、胸元に寄せる。
目を伏せると、またタチの悪い過去が嘲笑う。
ギリッと噛み締めた奥歯が嫌な音を立てる。

今日も、さがしものは見つからない。