手を引かれて店から出ると、着ていたコートを肩から羽織ってくれた。


もうすぐ4月になろうというのに、季節外れの真冬日だ。


「………言っただろ、惚れたって。本気だからな、……俺は」


背中から抱き締められると、背中に温もりを感じた。


―――やっぱり温かい。
シンちゃんとは違う。
胸が熱くなった。


「…このひと月、どれだけ長かったか、お前にはわからないだろうな。他の男の影をちらつかせたまま消えちまったんだからな」


偶然でもようやく逢えた嬉しさと、嫉妬していたもどかしさ、他の男のものにはなっていなかった安堵を噛み締め、絞り出すように。


切なそうな声が、さらに胸を熱くする。


「…消えちまったって、ご厚意で別の職場を紹介して頂いて。仕事場が変わってしまってあそこにも行く理由がなくなりましたから。文玻にも会えなかったんですか???」


「……会えてたらこんなこと言わねえよ」


「そうですね。………ほんとにガサツな庶民の私なんかで、いいんですか??他のご家族に反対されますよ」


「お前は何も心配するな」


「………はい」


―――幸せを噛み締めた。