店内はとにかく静かで、入り口にはカウンターがあったけれど、予約していたらしく、障子を隔てた少し奥のお座敷でのお食事になった。


「こんなお高そうなお店、勿体ないです」


お母さんとふたり、萎縮していると、


「いいんです。我々が静かな場所で食べたかったので」


お座敷で座ると瓶ビールが持ち込まれた。


「お酌します」


お母さんが立ち上がるけれど、


「そんなことわさせるためにお招きしたわけではありません」


やんわりと断られた。
なんだか本物の紳士だ。


「お母様、文子(アヤコ)さんをお招きしたのは、ガールフレンドのひとりとしてこいつに会わせてみたかったんだが、事情が変わりましたな」


大胆だ。発想が違う。
斎さんに酌をさせて一口ビールを口に運ぶと、


「そうですね、この若いふたりがそういう間柄と知ったからには、妻として迎えるためにも、ちょっとしたテストをしたいと思います」