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頭が真っ白になっていた。
ただ、目の前に現れた彼女、文李が、ほんわりと輝いて見えた。


―――今、
抱き締めないと、またどこか遠くに、手の届かないところに行ってしまう。


消えてしまう。


そう思ったとき、何も考えられなくなった俺は、ただ、抱き締めていた。


とてつもなく長かった。
言ってもたかが、この僅かひと月ばかり。


何度クリニックに行っても、姉にもマサトという男にすら会えるどころか、個人情報なのでと履歴書の住所も居場所もわかるわけでもなく。


「真部さまでも、出来ないものは出来かねます」


と断られた。


その気になれば探偵を雇うことも出来たが、この俺が、と仕事やら遊びで何とか紛らわす手立てを選んでしまった。


―――結果。
二度と会えないと確信したとき、もう他のことや女では、ごまかし紛らわすことは出来ないと。


「もう、どこにも行くな。俺の傍にいろ。……他の男には渡さねえ」