「…こんなことは初めてだな。火元は飲食か…??…ハンカチ持ってるな??煙を吸うなよ」


エレベーター近くで火が出たのか、換気口の隙間からじわじわと煙が入る。


「……どうしてここに…??海外に行ったんじゃないんですか??」


せっかく忘れられると思ったのに。どうして会ってしまうの。


「…無駄に喋ると酸素がなくなる。体力も消耗するぞ。屈め」


言って近付くと、着ていたコートを脱いで肩から二人分、掛けてくれようとする。


―――ふわりと暖かい。


「……触らないでください」


「こんなときに何言って……そうか、そうだよな。俺のこと嫌いなんだもんな、お前」


「………文李です……仲咲文李」


こんなタイミングで、いっそ言うべきじゃなかった。


これ以上関わりたくないのに。
これ以上触れたら。


―――もっと好きになってしまう。
もっと傷つくことになる。


「………触らないで」


口から飛び出そうな心臓と戦い、裏腹な言葉を口にしながら、声が震えた。