結局、食事をすることもなく、タクシーを拾ってくれて家路に着いた。


―――最低なのは私の方だ。


どうかしていた。
婚約者がいると聞かされてから。


手の届くはずのない、友人の一人にすらなり得ない真部さんを。
打ってしまった掌が痛くて、いや。もっとずっと痛いのは、


―――私の胸。


締め付けられた。
何ということをしてしまったんだろう。


理由もなく人に手を挙げる人ではないはずだ。


確かに一日二日会っただけで本当のところなんてわからないし、人柄や人間性を見抜く力はまだない。


でも。
本能が。
彼はそんな野蛮な人間じゃないと認めている。


それなのに。
理由も確かめずに勢いで打ってしまった。


「文李??帰ったの??」


お母さんの声も耳に入らない。
ぼんやりしたまま、お風呂に飛び込むと、ひとり、シャワーを全開にして声を抑えて泣いた。