「行きましょう、将希さん」


「えっ…??」


生まれて初めてかもしれない。
自分から相手の下の名前を呼んで、腕にしがみつくように絡み付いた。


「待て…そいつ、あの歯医者の…??」


「お付き合いしてます」


口が勝手に動いて喋っていた。
まるで別人が乗り移ったかのように。


「……っ!!」


「ま、真部さんも、……お幸せに」


絞り出すように、それしか言葉にならなかった。


顔なんて見られない。
見られるはずがなかった。
目を伏せてそれだけ言うと絡ませた腕を引っ張って店の中に向かおうとする。


「………わかったよ」


言うといきなり叶多さんにつかつかと近付いた真部さん。
拳が、振り向き様に叶多さんの頬に命中して、ふらついた。


「何するんですかっ!?」