「ごめんなさ…」


最後まで言わせず、ふわっと抱き締められる。


「……相談というのは嘘です。……心咲とは、別れました。このビルのアッパーフロアの男と正式に婚約したそうです。このビルの設計にも携わったコンサルティング会社の社長だとか」


抱き締める力が強くなる。
少し声が震えていた。


「元もと弁護士の友人の紹介で知り合った子で。付き合い始めにこのビルのバーに飲みに行ったとき、バーテンダーと気が合ったみたいで。少々頑張ってみたところで、所詮、歯科衛生士です」


あんなカードを持って顔パスでここにいる以上、ただの歯科衛生士ではないだろうに。
そう思いながら、


「……でも、相手もバーテンダーなんですよね??」


「このビルのバーテンダーは金持ちの道楽でやってるような連中ばかりで。そんな男に引っ掛かる女ばかりなんですよ」


「はあ…」


そんなことを言われても、どうすればいいのか。どうしてあげることも出来ない。