―――夜。
夕食をビルの53階のレストランで済ませ、ワインを飲みながら。
静かに、ジャズが流れていた。
「私のお仕事、どうしましょうかね??」
「…もう、しなくていい」
「えっ…だって」
「その、なんだ」
ごほん、と咳払いすると、
「改めて言わせてもらう。俺専属の歯科衛生士に、なってくれ。他の奴は診なくていい」
何となく、グラスの口許を拭う振りをした。
「……もう、目は閉じてくださいね??」
「……何でだよ」
「やりにくいんです。本当に」
「…いいじゃねえか。…見ていたいんだから」
恥ずかしくなって目を窓の外に向ける私。
窓の外にはビル群の、宝石箱を引っくり返したような夜景が輝いていた。
―――改めてゆっくりと見た夜景は、今日も綺麗だった。
人それぞれ。
私にとっては未だに馴染めない、高級なVIPビルそのものに価値があるわけではない。
いやむしろ、猫に小判、豚に真珠。落ち着く場所ではない。
彼といるから安心する。
彼と見るから、輝いて見えるのだ。
end

