「こっちこそ話を聞いて貰って有難かった。芦原さんは聞き上手だと白河さんが言ってた通りだったよ」


「えっ…未希がそんなことを?」


「ああ。彼女の結婚式の披露宴でだったかな。新郎との喧嘩で君に愚痴を聞かせた日の話を聞いて。『課長も翼みたいな子を射止めないとダメですよ。有料物件ですよ、あの子は』って、太鼓判を押されたな」


ハハハ…と声を出して笑う課長を眺め、顔の温度がどんどん上がっていくのがわかる。



(み…未希ってば、なんて恐ろしいことを…)


そう思いながらもサラリと言いのけられた言葉に揺れた。

一瞬だったけど、確かに名前を呼び捨てにされた。

「翼みたいに…」って初めてそう呼ばれた。



「や…やだなぁ、もう未希ってば…」


本気にしないで下さいね…と、心にも無いことを付け足した。

課長は「わかってるよ」と言いながら、その後は話を戻すこともなく食事を続けた。



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店の外へ出て、私はまたしても課長に「ご馳走様でした」とお礼を言った。

何度も奢って貰うばかりで、本当に申し訳なくなる。



「私は課長の懐が心配でいけません」


そう言うと、胸のポケットに長財布をしまう課長が微笑んだ。


「心配しなくてもいいよ。年末に宝クジが当たったから」


「あ…その話、新年会で小耳に挟みました。本当だったんですね」