俺はその横で何も出来なかった自分を後悔した。

ジョンは最後の最後まで俺のことを待っててくれたのに、何も恩返しが出来なかった…と悔やんだ。


「飼いだしたのは俺なのに、結局面倒は親と家族が見た…。俺はジョンに…何もしてやれなかった……」


その言葉に芦原の顔が上がった。

ぎゅっと握ってた箸を置いて、空になった手を握りしめている。



「…そんなことありませんよ!」


力強く言い返して泣き出した。

ポロポロ…と目から零れ落ちる涙が、彼女の握った手の甲を濡らしていく。


「ワンコは……ジョン君はきっと幸せでした…。最後の時に課長が来てくれて……絶対に良かったと思った筈です……!」


グスグスと泣き崩れながらもそう言いきり、頬に流れる涙を拭う。

鼻水を吸いながら肩を上げ、後から後から溢れてくる涙を拭こうとしたのかバッグの口を開けた。



「……私も課長と同じ思いをしました…。もう6年前になるんですけど……」


そう言いながら取り出したのはパスケース。

皮で出来た緑色のものを開くと、茶色と黒と白の入り混じった三毛猫の写真が見えた。



「…ミィと言うんです。実家で飼ってた猫で、飼い始めたキッカケを作ったのは私でした……」



話しだす芦原の顔が嬉しそうに見えるのは気のせいなのか、「久し振りに話します」…と、涙を浮かべながら微笑んだ。