正面玄関を出ると、社屋の壁に背中を凭れて立つ芦原の姿があった。

目線を空へ向け、赤いマフラーの隙間から白い息を吹き上げてる。

足先を向けた俺の靴音が鳴るのを聞いて振り返り、「あ…」という口元を見せた。



「早かったな」


声をかけながら近寄ろうとすると、向こうから歩み寄って来るなり「急ぎましょう」と腕を引っ張る。


「課長と2人で歩いてるのを見かけられたら後が怖いです」


オフィスから早く遠退きたい様子で、小走りに歩く彼女の後を追う。


部下の背中を追うなんて初めての経験だ。そもそも女性の背中を追うなんてあまり無い。



オフィスから大分離れた場所まで来ると、芦原は息を切らした状態で振り向いた。

辺りにうちの社員がいないことを確かめて、はぁ〜っと深い気を落とす。



「そんなに怖がらなくてもいいだろう?」


不思議に思い尋ねると、芦原は真剣な表情で訴えた。


「課長は自分がモテるのをわかってないんですか!?新年会でもあれだけ女子に囲まれてたのに」


怒られても困るが、確かにそう言えばそうだ。


「俺がモテてるかどうかは知らないけど、話し易いから近づいて来るんだろう」


嫌味の一つも言わないし、言うとしたらその場凌ぎ的な嘘を吐くくらいのもんだ。


「そういうのをモテると女子は言うんです。少しは自分の立場を弁えて下さい!」


やたらと強気な芦原の言葉に呆れる。