「やるじゃん」と言う未希に「叶わなかったけどね」と肩を落とす。


「でも、翼知ってる?課長って絶対にオフィスの女子と飲みに行ったりしないんだよ?この間も新年会の話にかこつけてランチに誘われてたじゃん。あれだって私の知る限り、翼が初めてなんじゃないかと思う」


何気に気に入られてたりして…と揶揄う未希に「止して」と手を払った。


「気に入られることなんて何もしてないから」


頭の隅に稲荷神社で出会ったことが蘇った。
あの偶然から、一度や二度の接点が続いただけだ。


「課長が風邪引いてるならチャンスかもよ。お見舞いと称して部屋を訪ねてみれば?」


「そんなのウソかもしれないじゃない。行って部屋に居なかったら惨めでしかないし」


「翼は課長のことを信じてないの?」


「信じるも何も先輩達から度々言われてきてるじゃん。『古手川課長の言うことは半分ウソだと思いなさい』って」


そう言いながらも信用しかけてた自分が何処かにいた。
課長の言うことを全て、間に受けそうになってたのも事実。


「それは半分くらい先輩達が作ったガードでしょ。課長はその場限りのウソは吐くけど、基本は真面目な人間だと思うな。翼も課長の話をウソいう名の冗談だと思えばいいじゃない。明るいウソでその場が楽しければいいんだから」


「そりゃ……そうだろうけど……」