首元に巻いたマフラーを鼻の頭まで引き上げて返す。
「行こう」と話す課長に頷き、後ろを歩き始めた時だ。


目の前にいる人の体から軽快な音楽が流れてきた。
電子音の響きに、課長自身も驚きながらスマホを手にする。




「もしもし」


誰からだろうかと背中側から様子を窺った。
私があげた扇のアクセが付いてるかどうか、見れないだろうかと覗く。


寄り過ぎてたのか、急に立ち止まった課長の背中にぶつかった。

「悪い」と謝る課長の顔が真剣そうだ。




「うん……うん……」


誰からかわからないけど、課長の声が沈み始める。
何があったのか知らないけど、どうやら緊急性があるようにも思えた。




「……分かった。直ぐに帰るよ」


ありがとう…と言って電話を切った。
何が起きたのか知らないけど、飲みに行くのはナシになったみたい。



「ごめん、芦原さん。急用ができたんだ。今から直ぐに実家に戻るから」


「えっ!ご実家ですか!?」


「うん。だから悪いけど気をつけて帰って」


「は…はい。私は大丈夫です。でも、課長はこれから帰って明日はどうするんですか!?」


飲んでるから車を運転する訳にはいかない筈。……となれば、電車であの遠い町まで行くってこと?


「明日は悪いけど休む。部長には明日の朝連絡するから」


それじゃ…と言い出すが早いか、踵を返して走り出した。