大はしゃぎの悠生を落ち着かせてマフィンの生地を作り上げた。

焼いてる間にチャイルドシートを付け替え、戻ってくるとキッチンからバニラのいい香りが漂ってくる。

オーブンの前に椅子を持ってきた悠生が、真剣そうな眼差しで中を覗き込んでる。



「シェフ、どうですか?」


ふざけながら問いかけると、ニッコリ笑って「いい感じ」と答えた。
悠生の夢の発端が、自分とのお菓子作りだとしたら嬉しい。



「つばしゃ、明日は何を作る?」


「あ、ごめんね悠くん。明日はもう自分の部屋に帰るんだ」


今日は3日。休みは明日までだから、午後の明るいうちに部屋に戻るつもりでいた。


「ええ〜〜。もっと居て〜〜!」


「そうは言われても、此処は悠くんたち家族とおじいちゃんおばあちゃんとでお部屋も一杯だし」


お正月の間だけは、将来悠生の部屋となるべき元の自分の部屋に布団を敷いて寝てた。

夜中に悠生が布団に潜り込んでくることもあり、懐かしい思い出と重なったりもした。


「ちぇっ、つまんない」


ぷうっと膨れる頬っぺたを撫でながら宥める。
伯母の私にそこまで懐いてくれるなんて嬉しい限り。


「今夜が最後だから一緒に寝る?お菓子はまた今度帰った時に作ろうね」


小指を出すと椅子から立ち上がって自分の小指を絡めてきた。
「絶対だよ?」と見つめる眼差しに「オッケー!」と笑って答えた。


こんなふうに慌ただしく日が過ぎて、5日の仕事始めがやってきた。