(……いいや。行こう)


変なことに出くわしたら逃げればいいんだ。
私はここに祈願に来たんだから是非とも願っておきたい。


ゴクッと唾を飲んで足を運ぶ。
カーブを曲がり切った先は急に開けて日差しが降り注いだ。



(うわっ…眩しっ…)


いきなりの眩しさに目を細めて前を向いたら金色に光る毛並みの存在に気がつき、ギクリと背中を仰け反らせた。

ハァハァ言ってたのはその生き物で、稲荷神社にしては狐じゃない。



(イヌ……しかも、これってゴールデンレトリバーじゃない?)


最近は小型犬が流行りだと聞いた。
私は単身者用のマンション住まいだけど、こっそり飼ってる人もいる。

さすがにこのサイズは小さな部屋では飼えない。
大きな家でないと無理ね…とイヌばかりを見てたせいか、連れてる人の存在を確認するのを忘れていた。



「あ…すみません。お参りの邪魔でしたね」


聞いたことのある声がすると思い、目線を向けた。

イヌの顔のラインから動かした目が、一番最初に捉えたのはブラウンのダウンジャケット。

その胸元でリードをしっかり握ってる手には黒の皮手袋がはめられ、オレンジ色のリードが映えている。

徐ろに顔を見ようと目線を上げれば、そこには見覚えのある人がいて……



(ゲッ!)


思わず心の中で叫んでしまった。


「おや、芦原さんじゃないか。奇遇だねぇ」