「悠生!」


姉が焦って引っ張るけど、悠生の腕は離れそうにもない。


「もういいよ、姉さん」


無理に剥がしても恨まれるだけだ…と判断した。
課長の機嫌を損ねないように…と、姉と母は交互に悠生に声をかけたけれど駄目だった。


「ゆうき君は翼さんが好きなんだね」


課長の言葉に敏感に反応を示す悠生。
これまでは私に彼氏がいないのをいいことに、自分が彼氏みたいな態度でいた。


「うんっ!つばしゃは僕のお嫁さんになるの!」


「ゆ…悠くんっ!」


それはキミが3歳の頃に言った言葉じゃないの。
三つ子の魂百まで?
いや、今はそれどころじゃないか。



(……ああ、やっぱり……)


課長の顔が固まってる。
これは子供の戯言です…と後でしっかり説明しておかないと。



「ふぅん、そうかぁ」


大人な態度で受け流す課長。
こんな場面に出くわすことになるなんて、一体誰が想像しただろう。



「と、とにかく、中へどうぞ」


リビングへと通し、母は課長の持ってきたケーキと紅茶を差し出した。



「ありがとうございます。頂きます」


課長はティーカップの耳を指で摘み上げ、落ち着き払った大人の雰囲気を崩さずに飲む。




『ちょっと、翼』


私の隣で悠生を引っ張り剥がそうと隙を狙ってる姉が肘で突つく。
チラッと目線を向けたら、ニヤニヤと笑いかけられた。