歩き出したら焼却場の方から啜り泣く声が聞こえだした。

立ち止まった私は思わず後を振り返った。

嗚咽の漏れる焼却場の煙突から薄いグレーの煙が昇り始め、私と課長はそれを並んで見送った。



「……新年会の翌日、俺がオフィスにいる君に電話を掛けたのを覚えてる?」


目線を上に向けたまま課長が問い掛けた。


「あのお昼休みのこと?」


彼のことを見上げながら聞いた。


「うん。あの時、ちょうど今と同じようにジョンの煙を見送ってたんだ」


地元の霊園でジョン君を火葬して、焼却場の外で煙の行方を見守ってたそうだ。


空を見てた目線が下ろされた。
私のことを見つめながら優しい笑みを浮かべてる。


「ジョンの煙を見送ってたら君がくれた御守りのことを思い出して。あれも一緒に灰になってしまったなぁ…と思ったら、急に芦原さんの元気のいい声が聞きたくなった」


久し振りに「芦原さん」と呼ばれたから照れる。
そんな悲しい日に私を思い出してくれたんだ。


「あの時、君に電話したのは正解だったよ。ワインとチーズで飲み直したって聞いて、俺もめげないで頑張らないとなぁ…と思えた」


元気が貰えた…と話す課長に肩を竦めた。

あの時の課長の声は酷く沈んでて驚いた。

本当に風邪で体調を崩したんだと思い、心細くなったんだろうって気がした。