悲しそうな目で母犬を眺め、「ヨシヨシ」と呟きながら鼻先をさすった。

ペロペロと手を舐められ、擽ったい…と微笑む。

俺の彼女は、芯から優しい女なんだと思う。



「心配しなくても大丈夫だ」


俺はそう言うと、彼女の腕を引っ張り上げた。
犬から離された彼女は、残念そうにしながら俺の方へ振り返った。


「うちに引き取られても、ジョイが毎日会いに来るから平気」


実家は目と鼻の先。
父親のことだから、朝夕の散歩時にはこの家の前を通るはずだ。


「それじゃあ安心ですね」


「ああ。だから平気だと言ったろ」


俺の言葉に翼が嬉しそうに笑った。

その後で実家に連れて行ったら、両親はとても喜んでくれた。


母は、「男しかいないから娘ができたみたい!」とはしゃいだ。
翼はそれを聞いて、どんな反応をすればいいのか迷ってるようだった。



「そのうち娘になるよ」


俺がそう言えば、芦原と母が驚いたように目を剥く。


「まぁ、そうなの!?」


母の質問に翼はますます困惑していた。

丁度帰省していた兄貴にも紹介して、2人で稲荷神社へ参る。

急勾配な坂道を車で上がり、赤い大きな鳥居の前にある駐車場で止めた。


車から降り立つと、翼は海の方に振り返った。
山の上に立つ神社からは水平線が臨める。


「荒々しいけど綺麗だなぁ」


海上の波は白立ち、海面が黒に近い紺にも見える。


「参ろうか」