2月に入ったばかりの土曜日、俺は彼女を誘って地元へ帰った。


「きゃ〜可愛い〜〜!」


翼はそう叫んで仔犬達の並ぶ方に向かう。
ベージュ色の仔犬達はそんな彼女を気にも留めず、懸命になって母犬の乳を吸い続けてる。


「どの子も可愛い〜。どれが課長の家の子になるんですか?」


俺は燥ぐ彼女の側へ寄って行った。
一番足元の方で乳を吸うチビを指差し、「こいつ」と教えた。

ジョンと同じ末に生まれた仔犬は、1匹だけ毛色が茶色っぽくて目立つ。


「この子かぁ…」


うっとりしながら見つめる翼の顔が嬉しそうだ。


「性別は?オス?メス?」


「オスだよ」


「名前は?もう決まってるんですか?」


見上げて聞かれるから頷いた。


「何ていうの?」


立ち上がって聞きたがる。


「ジョイ」


ジョンと同じく『J』の文字から始まる名前。
また楽しい日々が送れるように…と、父親が名付けた。


「ジョイ君!いい名前ですね」


翼はそう言うと、再び膝を折って仔犬に近づく。
乳を飲み終わったジョイを抱き上げ、「クタクタしてる〜」と撫で回した。


仔犬は生まれてからそろそろ1ヶ月近くになる。
離乳も順調に進んでて、間もなく実家にも連れて行けそうだ。


「これだけの子がいきなり全部いなくなったら、お母さんは悲しいでしょうね」


翼はそう言うと、ミィのことを思い出したようにしんみりとした。